経営幹部の戦略資料

  企画部などスタッフ部門の人たちからは、「経営幹部に上げる販売情報はどのように作ればよいのか」という質問をよく受けます。

一方経営幹部は、企業目標の進捗状況からその好調・不調の要因を探り、また自らの経験や洞察、肌で感じる市場の動向から、問題の発生を検知または予測しようとして判断材料を求めています。

それと同時に、自社の将来に向けたビジネスの方向性も模索しているでしょう。

これらのニーズに対しては、ドラッカーの「経営幹部の8つの実務」に提起されている項目が参考になります。   次ページの赤色で示した項目が、販売データが関係する項目です。

これを参考にすれば、経営幹部に報告すべき販売情報の「項目」が浮かんできます。

ではこれらの項目について、スタッフ部門の立場から、どのように報告すればよいかを考えてみましょう。説明の都合上、まず(3)の「商品・サービスの推移を知る」から見ていきます。  

ドラッカーによる「経営幹部の8つの実務」

(1) 部下からのアイデアを否定せずに取り上げる

(2) 組織で成功と失敗の検証に取り組む

(3) 商品・サービスの推移を知る

(4) 顧客の変化を知る

(5) チャネルの変化を把握する

(6) コストの実態を把握する

(7) 各部門、各階層のメンバーでブレーンストーミングを行う

(8) 機会を意識的に探す

  「幹部は事業に新しい進化を起こす先頭に立つべきである」との提言で、そのための現状把握と進化のヒントを探ることを促している。

 

実務(3) 商品・サービスの推移を知る

(以後は「商品・サービス」を単に「商品」と表現)

経営幹部が商品の推移を知るということには、2つの意味があります。

1つは、自社取扱商品の変遷とその販売動向から、自社の強み・弱み(得手・不得手)を読み取って、今後の事業展開の検討材料にすること。

もう1つは、現在の商品別販売状況の中に、経営幹部の支援・指導が必要と思われる問題が発生していないかどうかを確かめることです。

それではこの2つを踏まえて、商品の販売状況を整理することから始めましょう。

 

[実績推移資料の作成]

商品の実績推移は、次の項目に沿って資料を作成すると分りやすくなります。

    • 直近1年間の売上累計実績が上位70%を占める商品を抽出して個別商品の実績を集計する
    • 同様に、粗利益累計実績が上位70%を占める商品を抽出して実績を集計する
    • 実績は直近3年間の月次実績を集計し、直近2年間の「商品別の移動年計グラフ」を添付する (これにより、季節変動にとらわれずに推移を読み取ることができる)
    • また、商品別販売状況の全体像を示すために、直近1年間の合計実績で「全商品のABCチャート」も作成して添付する(実績下位商品は「その他」にまとめる)

以上の資料は、「取扱商品の全社合計実績」と「営業部署別実績」とで作成する

    • 商品に大・中・小などの「商品分類」や、製造メーカー・仕入先といった属性が設定されている場合は、社内でよく使われる属性ごとに同様の資料を作成する

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[経営幹部の役に立つ報告]

前項で作成した資料は、「現状の整理」であり、経営幹部に対して「販売状況の分りやすさ」を提供するものに過ぎません。

経営幹部にこれらの資料を有効活用してもらうために、もう一工夫します。それは、それぞれの資料に適切なコメントを付け加えることです。

先に述べた、「経営幹部が商品の推移を知ることの2つの意味」を思い出してください。これに沿ったコメントを追加するのです。

まず、「今後の事業展開の検討材料」として有効なのは、「商品分類」など、属性レベルでのトレンド分析と、現在「主力商品」に位置付けされている商品の現状と今後の見通しでしょう。

販売実績が伸びつつあるもの、逆に低迷しているもの、伸びてはいるが市場の成長予測とのギャップが大きいものなどを抽出して、その理由をリサーチします。

リサーチする項目例

取扱商品は市場の流行・嗜好とマッチしているか 自社の技術サポート力は武器になっているか 安定した大口顧客を持っているか 有利な条件の仕入先を持っているか    など

リサーチは業界発行の資料や、営業部門・仕入先からのヒアリングなどによって行い、その結果をコメントとして実績資料に添付します。

 そしてもう1つの「経営幹部の支援・指導が必要と思われる問題」については、これから述べる「構造的要因」によって引き起こされている実績の下降現象(構造的変化)を見つけ出して 報告します。

[構造的変化とは]

「構造的」とは、「世の中の仕組み上そうなっている様」をいいます。

そしてビジネス上の構造的要因には、大きくは国の規制など政策レベルのものから、身近なところでは、市場の流行の変化や新技術の発表による現行商品の陳腐化などが挙げられます。

また、自社の営業システム上の問題、あるいはライバル社の戦略変更による当方との力関係の変化など、ライバルとの競争の優劣によって起きる変化も構造的変化に含めていいでしょう。

注意すべきは、構造的要因による実績の下降現象は、放置しておくとそのままでは元に戻らないという性質があることです。見つけたら早く手を打たなければなりません。

 ところがこのような問題は、一営業部署や担当者レベルでの解決が困難な場合が多いのです。

解決策の検討には、「対応強化に向けた経営資源の再配分」、場合によっては「在庫処分」や「撤退」などの大きな意思決定が必要になるかもしれません。

従って構造的要因の解決にあたっては、経営幹部の主導による組織的な検討と意思決定、および営業現場への支援が必要になるのです。

以上のことから、構造的変化に関する報告をするにあたっては、事前にその変化の理由を詳しくリサーチして、幹部が早く判断してアクションを起こすことができるくらいの、高いレベルの情報まで練り上げておくことが望まれます。

 

[構造的変化の発見方法]

先に述べた「商品別実績の移動年計グラフ」を見ると、構造的変化を起こしている可能性のある商品を発見することができます。即ち「販売実績がある時期から下降に転じ、その後下降が継続している商品」がそれです。

「可能性」といったのは、たとえばすでに在庫処分をすることが決まっていて、徐々に価格を下げていったような商品も同じような変化をするからです。従って構造的な変化を起こしていそうな商品は、変化の理由が本当に構造的要因にあたるのかを確認してから、考えられる要因とともに報告しなくてはなりません。

 この「構造的変化の発見とその解決」は、販売データ活用の重要課題であり、コンサルタントの中には、「これができればデータ活用は8割方成功したといえる」という意見もあるくらいです。

実務(4) 顧客の変化を知る

商品の場合と同じように、経営幹部が押さえるべき「顧客の変化」にも2つの側面があります。

それは、「顧客層の変化」と「個別顧客の変化」です。

この内の「顧客層の変化」については、「4、チャネルについて」のところで一緒に述べることにして、ここでは「個別顧客の変化」を中心に考えていきます。

 

[実績推移資料の作成]

顧客の実績推移は、次の項目に沿って資料を作成します。

    • 直近1年間の売上累計実績が上位70%を占める顧客を抽出して顧客毎の実績を集計する
    • 同様に、粗利益累計実績が上位70%を占める顧客を抽出して実績を集計する
    • 実績は直近3年間の月次実績を集計し、直近2年間の「顧客別の移動年計グラフ」を添付する (これにより、季節変動にとらわれずに推移を読み取ることができる)
    • また、顧客別販売状況の全体像を示すために、直近1年間の合計実績で「全顧客のABCチャート」も作成して添付する。(実績下位顧客は「その他」にまとめる)
    • 商品に「商品分類」などの属性が設定されている場合は、ABCチャートに「商品分類別内訳」などを表示すると効果的である

以上の資料は、「顧客の全社合計実績」と「営業部署別実績」とで作成する

 

[経営幹部への報告]

B2Bビジネスにおける個別顧客の動向についての報告は、構造的変化を起こしている顧客の報告が中心になります。

 ある顧客への売上が下がり続けている場合、その理由として次のようなことが考えられます。

 ♦顧客への売上が下がり続ける場合の、考えられる理由

    1. 顧客側のビジネスに構造的変化が起きていて、購買力が低下している (顧客の生産品・取扱品や在庫商品の陳腐化、経営不振なども含む)
    2. 自社とライバル社の営業システム上の優劣が原因で競争に負けている
    3. 顧客側の生産品、ビジネス形態変更による当社主力商品の需要が減っている
    4. 顧客が安い製品への切り替えを行っている
    5. 顧客の生産品の問題発生により、生産が中断している
    6. 顧客側に、当社製品への不信が発生した

  など

これらの項目の内、経営幹部に報告するべきものは、上位(大口)顧客に対して(1)と(2)の現象が見られるケースでしょう。

特に項目(1)は、顧客の今後の見通しなど、経営幹部としても気になるところです。場合によっては何らかの支援策を考えるなど、会社対会社目線での発想があるかもしれません。

従って可能な限り情報を集めて、共に報告するべきです。

また(2)については、解決するには組織的な検討・対応が必要な事案ですので、組織全体を見渡せて、経営リソースの配分も発案できる経営幹部の支援・指導が必要になるものです。

残り(3)以降の項目は、本来営業部署が対応するべきもので、経営幹部への相談やトップセールスの要請なども、必要に応じて営業部署から為されるものでしょう。

従って本テーマの報告書には、特筆事項がある場合のみ記載すればよいと思います。

なおこの報告を行うと、多くの場合「この顧客には何が売れているのか」という詳細データが要求されます。

従って、「顧客毎の実績の内訳推移が分る資料」を作成できる準備はしておいた方がいいようです。

実務(5) チャネルの変化を把握する

「チャネル」とは、商品が当社から代理店や小売店などを介して、エンドユーザに届くまでの経路をいいます。

そして、これらのチャネルを使って商品の流通を円滑に進めるには、それぞれのチャネルの性格に合った機能が必要になります。ここでいう「機能」とは、推奨商品の選択とマージン政策、担当する要員のスキル・知識・サポート力などを指しています。

一方、近年の流通形態の多様化とともに、チャネルの構造はだんだん複雑になってきています。それは、市場自体が「業種」中心の考え方から、「業態」中心の戦略を重視する考え方に変わりつつあるからです。

そこで「チャネル」については別途4項にて、詳しく述べることにしますが、経営幹部には、自社のチャネル構造を図に表わして、そのルートごとの必要な機能と、直近の実績をその中に示した「チャネル図」で報告するのが効果的です。

実務(2) 組織で成功と失敗の検証に取り組む

この項目については、すでに日常的に行われており、関連資料も作成されていることですので、スタッフ部門で行うことは、案件ごとに次の準備をしておくことでしょう。

検証を効率よく行うための参考資料の提供

関係する市場動向の調査

検証作業中に、新たに必要が生じたデータ集計と分析用資料の作成

これらの作業にいつでも対応できるように、最新の販売データを集計・加工できる環境を整えておくことが大事です。また検証の会議中に出る急な調査の要求にも、その場でデータを加工できるような仕組みを用意しているところもあります。

なお、計画管理を効率よく進めるためのヒントは別の機会に述べます。

実務(8)  機会を意識的に探す

ドラッカーの言う「機会」とは、自社のビジネスを「進化」させるための機会ということです。

普通「機会」というと、「市場動向を見ながら、自社の強みとなっている経験や技術、チャネルや資金力などの優位性を生かして、新規分野に挑戦する」というイメージが一般的です。

一方ドラッカーは、「自社の弱みや他社の脅威、または市場とのアンバランスなど、問題を克服しようとするイノベーションの中にも機会はある」と述べています。(アンバランスというのは、たとえば市場規模が小さいのに、それに見合う以上の投資をしているようなケースを指します)

従って「機会を探す」ということは、コンサルタントがよく行う、「自社の強みと弱み」を把握することが重要になります。

そしてそれは、販売データにも表れています。

コンサルタントが行う「強みと弱みの抽出」は、販売データの分析による仮説を立てて、それを社員からのヒアリングで検証する方法によって行われているのです。

今まで述べてきた、販売データの「変化」を見つけ、その「理由」を考えて「検証」し、それを「解決」(強みについては強化・維持)しようとする過程の中にも、新たな「機会」を発見できるチャンスがあるのです。(「機会の発見」については、第3部にも記述)

以上、スタッフ部門の立場から、「経営幹部のデータ活用」について述べてきました。

自社の強みも弱みも正確に反映している販売データの変化をウオッチして、問題を発見したら、変化の理由と解決策の案とともに幹部に報告していただく。それが「活用」だと思います。