チーム活性化ツール

  営業マネージャの仕事には様々なものがありますが、メインの仕事は次のようになるでしょう。

  1.  営業戦略の立案
  2.  目標管理
  3.  部下の育成
  4.  重要顧客の維持・管理
  5.  商談の見込み管理と、売上目標と見込みとの差額への対策

 これらはどれも重要な仕事ですが、マネージャにとって最も気になるのは、やはり(2)と(3)の仕事ではないでしょうか。

マネージャの中には、自らも営業ノルマを抱えている人も多く、そういう人々はなおさらのこと、この2つの仕事に苦労していると聞きます。

そこでここでは、マネージャの日常業務の中に、販売データをうまく組み込むことによって、部下の力を引き出しながら、チーム全体で行う目標管理を目指します。  

なお、ここに紹介することは、これまで筆者がマネージャ諸氏から聞いた意見やアイデアに、私の提案も含めてまとめたものです。

ここでのキーワードは「みんなで質問」と「しかのてりやき」です。

 

目標管理と部下の育成に効果を発揮するグラフと、その役割

最初に、目標管理と部下の育成に効果を発揮するグラフと、その役割を確認しておきます。これらのグラフはどれもおなじみのグラフですが、直観的で分りやすいため、グループ会議での情報共有や、部下も納得ずくの指導ができるといわれているものです。

これらのグラフについては、こちらで詳しく述べてますので、ここではそれぞれの概略と「活用シーン」を簡単に紹介しておきます。 営業グループの会議にはぜひ活用していただきたいものばかりです。

ABCチャート

このグラフは、顧客または商品ごとの売上金額(または粗利金額)を大きい順に示した棒グラフと、その構成比の累計値を示す折れ線グラフを描いたものです。

このチャートは普通「ABC分析」に使われるものですが、そこまでしなくても、いつも「実績上位の顧客・商品から報告やディスカッションを始めよう」という習慣作りに利用することができます。

営業部員ごとに担当顧客が決まっている場合は、部署が担当する全顧客の今期累計実績でこのチャートを作成して、グループ会議の冒頭で出席者に示します。

営業部員は、自分の担当する顧客がどこに位置付けられているのかを確認できますし、状況報告の際には、自然に上位顧客から報告するようになるでしょう。

Zチャート

このグラフは直近1年間の「月次実績グラフ」と「累計実績グラフ」と「移動年計グラフ」を組み合わせたものです。そしてこの3本の折れ線グラフは必ず2か所でつながり、「Z」の形になります。

一番上のグラフは、季節変動にとらわれずに「伸びているのか」「落ちているのか」を教えてくれ、斜めのグラフは「変化」を教えてくれます。

Zチャートは初めて見る人にも、簡単な説明ですぐに分ってもらえる、たいへん便利なグラフで、会議で使用すると、大概の出席者は自分の担当顧客のZチャートを確認したがるそうです。

自分の顧客を見たがるくらいですから、「主要顧客のZチャートをみんなで確認する」ことは、出席者の関心を高めながら、情報の共有を促す効果があると思われます。

ポートフォリオ

これはExcelのバブルチャートに類するものです。

本来、ポートフォリオは株などの投資の分野で利用されているものですが、ビジネスの世界でのポートフォリオは、ボストン・コンサルティング・グループが、当時日本の家電メーカーと競争していた米国のゼネラル・エレクトリック社に、「ライバルとの競争に勝つための分析手法」として提案したものです。

この詳細は第2部で述べていますが、ここでは「マネージャが部下の担当顧客の状況を簡単に把握できる『カルテ』」としての利用をお勧めします。

 部員ごとに担当顧客のポートフォリオを描くと、顧客ごとの売上伸び率と利益の構成比が一望でき、重要顧客の状況もすぐに分るので、多忙なマネージャが部下ごとの指導を行う際の、まさに「カルテ」の役割を果たします。

また、部下とともにそれを見ながら話し合えば、部下も納得ずくの指導が行えるでしょう。

 なお、ポートフォリオは毎月チェックすることにより、各顧客の実績の「流れ」が分るようになります。

 移動年計グラフ

このグラフはZチャートの一番上のグラフだけを描いたもので、季節変動に惑わされずに多くの顧客や商品の動向を比較することができます。

このグラフが知らないうちに下降を続けていたら一大事です。「経営幹部編」で述べた構造的要因による変化かもしれません。すぐに理由を調べて対処しなければなりません。

またこのグラフは、新規の顧客や商品については、取引(取扱)開始後1年間は上昇を続けるのが普通ですから注意してください。

逆に、すでに1年以上の取引があってこのグラフが上昇を続けている場合は、たいへん喜ばしいことですが、そのような顧客や商品の動きは外から見ても「目立つ」ので、必ずライバルが攻略を仕掛けてくるでしょう。ライバルの動きにも十分注意する必要があります。

 内訳グラフ

部署や部員、あるいは顧客の実績が振るわない場合は、その原因を調べる必要がありますが、その作業を支援してくれるグラフです。

例に挙げた図は月次実績の例ですが、目標管理の時は「今期の累計実績」、動向を調べるときは「移動年計実績」でグラフを描くと、状況と傾向が分りやすくなるので便利です。

具体的な使い方は、ある顧客の売上が低迷している時、その顧客について、商品の大分類レベルの内訳グラフを作ってその要因を探し、次に中分類の内訳グラフ、小分類…と絞っていき、最終的に商品(群)まで掘り下げていくのです。これをドリルダウンといいます。

  以上、目標管理と部下育成に使う「道具」について述べてきました。

 

「グループ会議」の事例

ここからは、現行の目標管理資料にこれらの道具をうまく組み合わせて、部員の知恵を引き出し、具体的なアクションを指示しているマネージャの事例を紹介していきましょう。

舞台は「グループ会議」、ポイントは「簡単にできる仮説検証法の定着」と、「みんなの知恵を結集した提案書」で、この2つを通して、営業部員の「顧客ニーズを聞き出す力」と「解決策の提案力」を向上させようとするものです。  

 [簡単にできる仮説検証法の定着]

仮説検証法については「分析手法」で概要を述べましたが、基本は「こんなことが起きていないか」という仮説を立てて、販売データやヒアリング、実験などで検証しようということでした。  

この手法を使って、会議では次のように進めます。

使用するのは目標管理資料とZチャートです。なお、この過程では「批判」を禁じて、みんなが自由に発言できる雰囲気を作ることが大切です。

・   部員ごとに担当顧客のZチャートを順次確認していく

・   その中で大きな変化を示している顧客や、目標達成に苦戦している顧客、実績が下降あるいは低迷している顧客については、担当部員から、その要因と思われるものを報告させる

・   苦戦している顧客については、他の部員からも、「こういう要因は考えられないか」、「この方法で効果を上げられないか」という質問やアイデアを出してもらい、マネージャ自身も「そうなっている理由はこうなのか」と質問する

・   仮説の候補は「数」を出させるべくリードすると、みんながいろいろな角度から考えた候補が出てくるとのことである

・   マネージャは出された要因候補やアイデアの中から「仮説」として適切なものを選び、その検証のための情報収集や分析を指示する

・   検証するテーマが決まった後は、マネージャは必要に応じて、客先に同行して情報収集の指導や、検証過程のサポートを行う

・   検証の結果、立てた仮説が正しいと判断された場合は、それが顧客ニーズ、または拡販策のヒントになるものとしてみんなに報告し、確認する

  このような形で仮説検証を繰り返して、真の問題点を部員とともに絞り込んでいきます。

この進め方のメリットは、仮説を立てる段階で、チーム全員の知恵を動員できることです。そして部員が質問やアイデアを出すときには、自然に自分の営業内容の点検も行われるのです。 前述したキーワード「みんなで質問」はこのことを意味しています。

  仮説検証法は導入のための費用もかからず、「マネージャの意思とリード」さえあれば、導入・定着が可能なテーマです。 部員に対する上手な質問と、その検証過程のサポートを繰り返すことにより、苦戦要因を解決しながら、実績と部下を伸ばしていくことができる手法です。

  参考までに、マネージャ諸氏がチームの知恵を引き出す「ネタ」として、事前に準備していたことを以下に紹介しておきます。

・   全部員の実績を点検して、問題になりそうな顧客や商品をピックアップするとともに、要因を追跡するための内訳グラフを作っておいた

・   自部署の上位顧客ごとに実績上位の商品を抽出して、顧客間の売上内容にアンバランスがないか調べておく

・   自部署で苦戦している商品が、他部署ではどれくらい売れているかを調べた。 そして売れている顧客については、その理由をそこのマネージャからヒアリングしておいた。

・   自部署の上位顧客について実績の前年同期比を調べ、大きく変化している顧客と売上内容の変化を調べておいた  

なお、仮説検証法については別の機会に詳しく述べます。  

  [みんなの知恵を結集した提案書]

「チーム内の情報共有を促進して、みんなの知恵や成功事例を次のアクションにつなげたい」。マネージャからよく聞かれるこの意見を具体化する方法を提案します。  

グループ会議では、仮説検証によって抽出された顧客ニーズが報告され、またディスカッションによる拡販アイデアが発表されます。 その顧客ニーズや拡販アイデアをもとに、「提案書に盛り込む骨子」をその場でまとめてしまうのです。

その時に使うフォームの例を、次に紹介します。このフォームは「新規テーマの提案用」と、「顧客ニーズの解決策提案用」のどちらにも使えるものです。

needs_3「これは顧客への提案として使える」という判断はマネージャが行います。そして提案書のフォームを出して、その場で記入できるところを全員で埋めてしまいます。

残りは当番を決めて記入を完成させます。 当番には新人がなることが多いようですが、カタログ、ネットなどで調べ、中には仕入先や顧客にまで教わりに行った人もいました。

こうすることによって、思いつきやアイデアが「使える知恵」に変わります。

そして完成した提案書をグループ会議で確認し、全員が利用できるファイルとして共有するのです。  

先に示したもう一つのキーワード「しかのてりやき」は、この提案書に盛り込む項目の頭文字をつないだ言葉なのです。  

  以上、営業マネージャのデータ活用事例を紹介しました。 なお、後半の「提案書」については、データとの直接のかかわりはありませんが、ともすれば「言いっ放し」で終わってしまうことが多い意見やアイデアを、ぜひアクションにつないでいただきたいという思いで紹介したものです。

次項からは「営業部員のデータ活用」について述べていきます。