PAGE TOP

販売分析入門講座

第2回 販売情報、可視化へのアプローチ(1)

出て行った社長  ・・・ 経営幹部の視点(1)

突然社長が席を立ち、会議室から出て行ってしまいました。ある地区の営業所長が、自部署の営業状況について発表している最中のことでした。

所長は主不在の会議で、持ち時間の20分間発表を続けなければなりません。出席者の多くは同情の気持ちを禁じ得なかったことでしょう。

会議は経営幹部のほか各営業責任者が出席する「営業部署長会議」。プロジェクタのスクリーンには、その営業所の顧客別実績表が数字で埋め尽くされていました。

もうおわかりですね。社長が聞きたかった報告は個々の顧客の状況ではなく、その営業所のこれまでの推移と今後の見通し、そして問題点だったのです。
その上で、問題解決に向けた営業所の施策、本社への要望を聞きたかったのです。


発表者のぼやき  ・・・ 「数字」を判断するいろいろなモノサシ

営業会議では、いろいろな販売資料が配布されます。 部署別実績表や商品別実績表、顧客別実績表等々、それも当月度のものであったり、年間の推移表であったりします。

休憩時間に、先ほど発表した所長がぼやいていました。「せっかく説明しているのに、みんな(資料の)違うところを見ていた」と。
しかしその間、出席者は努力していたのです。 業績がよかったのは何がどこに売れたのか、前期の推移と比べてどうなのか、他部署や自部署と比較してどうか・・・。関連する数字を拾い、頭の中で組み立てて、状況を正確に読み取ろうとしていたのです。

このような行き違いは、どうして起きるのでしょうか。
それは同じ販売データであっても、見る人の立場によって、そこから得たい情報が異なるからなのです。

例として、A商品の今月度の全社売上が3,600万円だった場合を考えます。
この数字から「よく売れたのか」とか「売れなかったのか」を知りたい人は、この数字を何か別の数字と比較するでしょう。たとえば次のように・・・ 

    「計画は3,000万、よくやった。」   ・・・ 計画比

    「去年の今頃は4,000万、落ちたな」  ・・・ 前期比

    「売上はよいが利益が少なかった」   ・・・ 利益率

    「全商品に対するA商品の売上構成が増えている。」 ・・・ 構成比

    「A商品の市場シェアが10%に上がった。」    ・・・ シェア

 一方ほかの人は、この商品を「どの部署がどれだけ売ったのか」、「どの顧客に売れたのか」など、部署間、顧客間の売上比較をするかもしれません。

このように販売状況を判断するには、売上金額や利益金額・販売数量といった直接的な値のほかに、各種の比率やその推移、さらには他との比較を併せ見ることによって、より正確な状況を読み取ることが可能になるのです。

さて、ここまではA商品1つを対象に、いろいろなモノサシについて述べてきましたが、実際には営業部署、営業担当者、顧客、商品など多くの対象に、これらのモノサシをあてて状況を把握する必要があります。

その最も効果的な手段が「販売状況の可視化」にほかなりません。

そしてこれに成功すれば、情報の受け手は数字を元に状況を組み立てる作業から開放されるのです。



自分の客見せて!  ・・・ 情報が共有された瞬間

今度は可視化されたデータが出席者に与えた効果に関する事例です。

あるプラスチック材料メーカーの営業会議に同席させていただいたことがあります。出席者は営業部員10名ほど。
マネージャは、今回初めて顧客別の Zチャートを披露しました。

顧客のZチャート

 Zチャートは季節変動に惑わされずに、その顧客への売上が伸びているのか、落ちているのかを一目で見せてくれる、とてもわかりやすいチャートです。

マネージャがいくつかの顧客のZチャートを見せているうちに、座は次第ににぎやかになり、出席者から「自分の担当顧客を見たい」とのリクエストが相次ぎました。
 自分の担当顧客ですから本当はわかっているはずですが、「確認したい」との気持ちが伝わってきます。マネージャは次々にリクエストに応えていきました。

自分の顧客を確認したいくらいですから、同僚の顧客の状況については初めて見る人も多かったのでしょう。出席者はみな熱心に見入っていました。

そして、売上が非常に伸びている顧客のZチャートが表示されたとき、出席者から「なぜ伸びているのか」との質問が出されました。 そこでマネージャは、その顧客の担当者に理由を報告させました。成功例を話すのです。生き生きと発表している担当者が印象的でした。

発表内容は専門用語が多かったのですが、顧客のニーズにフィットする製品を新たに提案したとのことでした。 次にマネージャは、「この成功例をほかに応用できないか」とメンバーに問いかけ、ディスカッションは続きました。

この例に限らず、販売データをグラフやチャートに表わして見せると、ほとんどの場合、営業部員から「自分の担当する商品や顧客の状況を見たい」というリクエストが相次ぎます。

そして自分が捉えていたイメージと異なる結果を見て「何故?」と首をかしげることも少なくありません。 この「何故?」をもっと早い段階で感じることができれば、その分早く手を打つことが可能になります。

したがって販売状況を日常的に可視化することは、早期の問題発見を助けることになるのです。

また、可視化によってグループ内の情報共有が確かなものになれば、それは互いのアドバイスや成功事例の応用を促し、各人のノウハウをも共有する習慣を作っていくでしょう。


ビールは冬が安い?  ・・・ 経営幹部の視点(2)

10を超える営業所を持ち、小売のほかに飲食店などへの卸にも力を入れている酒類販売会社の社長室でのミーティング。 社長以下幹部出席の中、情報担当マネージャから、販売状況をすべてグラフで報告するツールが紹介されました。

マウスが社長に渡されると、社長はまず全社合計売上を、酒の種類(日本酒、洋酒、ビールなど)別に見ていきました。 そして次に、それぞれの商品の月別販売状況のグラフに移りました。

しばらくそれを見ていた社長は、今度は次々に営業所ごとの月別販売状況のグラフを見て、営業課長に尋ねました。「なぜビールの利益率は冬が低いのか?」 社長の考えは、「需要期の夏場は競争によって利益率が下がったとしても、冬の利益率はそれより高いのではないか。」というものでした。

これに対して課長は、「いや、冬はビールの売上ノルマがきついので、どうしても値引してしまうんですよ。」と答えました。どうやら現場ではあたり前のことになっていたようです。

そして社長は、「現在の売上ノルマは、利益確保を考えたときに適切なノルマであるのか」よく研究するように指示しました。

この例でわかるように、経営幹部が販売データを見るときは、まず全体像を捉え、次にその推移を追っていき、何かヒントや問題を発見すると細部に入っていくという手順を踏むのが普通です。

ミーティング後に社長から、従来の報告形態に2つの問題があったと聞きました。 1つは、数字の表から全体像や推移を把握するのに時間がかかること。もう1つは、違う切り口でデータを見たいと思っても、その集計作業を誰かに指示して、報告を待たなければならなかったことです。

この酒販会社ではその後、販売情報を社内ネットワークを通じてすべてグラフで報告するしくみを取り入れ、幹部はマウス操作だけで、自分の見たい切り口で販売状況を見ることができるようになりました。

第1回 |  目次 |  第3回